親知らずの話
いちばん最後に生える第三大臼歯
永久歯上下28本が生え揃うのは12歳頃です。そのあと早い人で14歳頃から、中には20歳を過ぎてから、歯列の一番奥に第三大臼歯が生えてきます。他の永久歯と比べ、生えてくるのがとても遅く、親が手をかけて育てる時期を過ぎて、親の知らないうちに生えるというので『親知らず』と呼ばれています。知恵がついてから生えるというので『智歯』ともいいます。
正しい位置に生えないのはなぜ?
親知らずは上下左右に各1本ずつ、合計4本あります。傾いて生えてきたり、アゴの骨の中に埋まったままで生えないことも多いようです。これは現代の食生活が軟らかいものを中心としているため、アゴの骨が十分に発達しないためアゴが小さくなり、永久歯がすべて生え揃うだけのスペースがないからといわれています。親知らずには生えるべき場所がないのです。
生えていない親知らずをそのままにしておくと
歯は支えがないと前方か上方に伸びようとします(ゴードンの法則)。そのため親知らずは常に前にある第二大臼歯を圧迫します。その影響で歯列全体が侵され、歯並びが悪くなります。
また、第二大臼歯の親知らず側の歯根は、埋もれた親知らずによって絶えず圧迫され溶けて吸収されてしまいます。こうなると第二大臼歯を抜歯しなければなりません。
さらに、上下左右4本ある親知らずが、2本あるいは3本しか生えていない場合噛み合う歯がないので歯肉などにあたり、その部分に腫瘍ができることもあります。
親知らずがもたらす痛み
「下顎智歯周囲炎」
親知らずが半分だけ頭を出した状態では、親知らずとその前方にある歯との間に食べカスなどがたまります。歯をみがいただけではなかなか取れません。こういう状態で歯と歯肉の間の深い溝に食べカスなどが入り込むと、それが口中の細菌によって腐敗し、周囲の組織に炎症をおこします。
また、生えている親知らずの後方にある歯肉が親知らずにかぶさるようになっていても、親知らずと歯ぐきの間に食べカスがたまって炎症がおきやすくなります。
この炎症が『下顎智歯周囲炎』です。
場合によっては入院も
下顎の親知らずの周りの組織は炎症が広がりやすい構造にできていて、感染をそのままにしておくと周囲にどんどん広がります。頬が腫れる、アゴの下が腫れるなどの症状や痛みがおき、ひどくなると、のどにまで炎症が広がり、ものが飲みこみにくくなります。
炎症がアゴの周囲の筋肉にまで広がると、口が開かなくなることもあります。さらに炎症が進むと、発熱や悪寒などの症状まであらわれます。場合によっては入院が必要になることもあります。親知らずの炎症と簡単に考えてはいけません。もし腫れるようなことがあったらすぐに歯科医院を訪れて下さい。
※下顎智歯周囲炎の進み具合によっては、親知らずを抜歯しなければならないこともあります。
親知らずは本当に抜いた方がいいの?
最近の歯科医療の傾向として、できるだけ歯を抜かないということが言えます。親知らずも例外ではありませんが、さまざまな理由で抜歯せざるを得ないことが他の歯よりは多いのも事実です。
こんな時は、やむを得ず抜歯します
- ひどいむし歯になっている時
- 歯周病になっている時
- むし歯や歯周病はさほどでもないが、あまりにもお口の奥の方に親しらずが生えていて、歯みがきが不可能な時(むし歯を治ても、必ずもう一度むし歯になってしまいます)。
- ちゃんと生えきらずに、半分歯ぐきの中に埋まっていて、しばしばその周囲に痛みがでるような時(急に痛くなったり、腫れたりする恐れがあります)。
抜かない方がいい時とは
- ブラッシングによって、ある程度、清潔さを保てる時。(むし歯や歯周病を治して、歯を保存しましょう)
- ちゃんと生えきっていないが、今まで一度も痛くなったことがない時(ただし、歯科 医師の判断で今後の問題が起こることが予想される時は抜歯をおすすめする場合があります)。
これらの親知らずは、大切にとっておいて、将来、ブリッジや義歯の支えとして使ったり、他の奥歯を失った時に、そこに親知らずを移動して使ったりできます。
しっかり歯みがきを続けていきましょう。